患者さんに教えられることもたくさんあります

石で遊ぶ男の子

ある男の子の話

私は小児科勤務なので、患者さんは全て14歳までの子供です。
生まれたばかりの新生児もいれば、中学生もいます。
私にも子供がいますが、毎日顔を合わせているうちにまるで我が子のようにかわいいと思えてしまう事も多いですが、逆に教えられる事も多々ありました。

私が働き始めて最初に、プリセプターの先輩について担当させてもらった男の子がいました。
その子は生まれつきの心臓の病気で、ほとんど病院の外の生活を経験したことのない子でした。
年齢も私の子供と同じだったため、つい感情移入してしまい注意された事もあります。

調子が良い時は院内学級に通いますが、ひとたび調子が悪くなると本当に苦しそうで、私のような新米看護師はおろおろしてしまうばかりでした。
彼の両親は共働きで、2人とも忙しい人でした。
毎日どちらかは彼に会いに来ますが、時間が遅かったり短時間だったりする場合も多く、闘病中の彼が孤独とも戦っているように見えて、自分でも気付かないうちに勝手に同情していたのでしょう。

教えられること

ある時、一人でいる彼に、「お母さん忙しいんだね」と声をかけた事がありました。
すると、「そうだよ。
だから僕も頑張るんだ!」彼はそう言ってにっこり笑ったのです。
そのあまりに屈託のない様子に、私の方が拍子抜けしてしまいました。

私はどこかで、彼の淋しいという言葉を待っていたのだと思います。
その気持ちを、母親でもある自分が彼のお母さんの代わりに受け止めて、少しは発散させてあげられたらなどという気になっていたのでしょう。
今思うと、私が彼にかけた言葉は、思いあがったものだったと反省してしまいます。

さらに、彼は私に「看護師さんにも僕と同じ歳の子供がいるんでしょ?」と言ってきました。
私が頷くと、「その子も、夜お母さんがいなくて淋しいって言う?」と聞いてきたのです。

実は、さびしいという言葉を胸に秘めて、なかなか言い出せずにいるように見えていました。
そう答えると、「そっかあ」と彼はまじめな顔で言ったのです。
そして、しばらく間をおいてから、「でもね、大丈夫だよ。
お母さんが頑張っている事はちゃんとわかってると思うよ」と笑いました。

「僕は淋しい時にはお母さんの笑っている顔を思い出すんだ。
だから、お母さんといる時は、僕もいつも笑ってるんだよ」
結局、彼の病気は治ることなく、この数週間後に突然の悲しいお別れをする事になりました。
まだ幼かった彼の大人びたこの言葉を、私はこの先一生忘れないと思います。